第31期会長就任にあたって




 高橋 一郎  (山形大学)




1.はじめに
 米沢でのシンポジウムの余韻も束の間,第31 期会長を仰せつかりました.旗振り役などは苦手な私ですが,佐藤真奈美先生,長坂先生と御一緒に御神輿を担がせて戴きます.宜しくお願い致します.
 本学会はここ数年,会員数も平衡状態で安定期と言えましょう.また,新編ハンドブックが漸く発刊され,熱物性DB も公開利用が進んでいます.トピックスに照準を当てた研究会活動も軌道に乗っています.さらに,会誌アーカイブ化,論文のJ-Stage 公開と,懸案事項がことごとく解決し,ここに創立30 周年を迎えますことは真に慶賀に堪えません.

2.社会のための科学
 昨年来,経済の低迷脱却が模索されています.それには,長期の視点から経済体質を変える必要があると同時に,医療や電力, 農業, 介護などの分野が潜在的な成長分野と言われています.環境問題はもちろん,これらの分野すべてにおいて「熱」が関与しており,熱物性がキー情報でしょう.
 「熱」をキーワードとしてつながるさまざまな分野の研究者・技術者が集う本学会は,正に熱物性「広場」である,と言われた牧野俊郎先生の言葉を思い起こしています.この広場は集う人たちの「ものの考え方や性格までもがさまざま」であるから「広い視野から現象や社会を見る学術・技術の智恵が育つ」と述べておられます.その通りでしょう.この広場には,熱物性情報を求めて多方面から集まります.しかし逆に,熱物性をキーワードとして広場の外へ打って出る向きもあって良い.つまり,前述の4 分野において,熱物性情報を利用した技術ブレークスルーが期待できないものでしょうか.
 近年の技術の高度化,統合化には目を瞠るものがあり,一方で微細化,複雑化の深みは増すばかりです.日本熱物性学会はそれらを支える一分野を担っていますが,常に「社会のための科学」という視点を持って活動する広場でありたいと思います.

3.これからの学会活動
 言うまでもありませんが,各種材料の熱物性値やその推算技術を充実させる仕事は重要です.また, 熱物性計測技術には広範囲に適用できる標準物質が欠かせません.ハンドブックがありDB があって, それらはもう十分でしょうか.そうではないと思います.例えば,SCM435の1000 K 付近での熱物性が正確に知りたい,などといった工業現場の要請に即答できないのが実状です.当然のこととして本学会は「社会のための科学」を標榜できるような実績が今後も求められます.また一方,現在の広場は顧客ニーズに合っているとは言え,研究イノベーションには新しいマーケットを狙う必要があり,その方向の活動も重要ではないでしょうか.
 もうひとつ,技術の伝承と申しますか,次世代の育成支援が重要です.私ども団塊の世代は親の背を見て子は育つと思いがちですが,今や大学でも伝承システムが無くなりつつあります.教育プログラムとまでは言わなくとも,若手育成のための研究会がまず必要ではないでしょうか.さらに,若手の魅力ある情報交換の場づくりも大事であると思います.

4.創立30 周年記念事業
 本学会は1980 年11 月25 日創立ですので,今年の11 月に創立30 周年を迎えます.牧野俊郎先生を長とする創立30 周年企画実行委員会では,本学会の今後を展望するため,記念誌発行,記念セミナー開催,既刊のシンポジウム講演論文集・会誌のCD 化,ホームページの充実などの事業が着々と進められています.
 学会の30 年とは,その構成員一人が現役で活躍する期間とほぼ一致します.つまり,草創期を知る先生方が広場におられるうちに,歴史を正確に記録しなければと思うのです.長島先生のお言葉「単なる郷愁的思い出を排し,今後への教訓を探る」を基本方針として鋭意取り組みます.今年中には次の30 年への立派な道標が出来上がることでしょう.

5.おわりに
 学会の諸活動は会員諸兄のお力添え無くしては何事も成りません.11 月にはJSTP2010 シンポジウム九州で記念式典が企画されています.是非ご参加くださいますようお願い申し上げます.


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