社会の持続的発展を支える熱物性研究
馬場 哲也 (産業技術総合研究所)
このたび第32期日本熱物性学会会長を務めさせて頂くことになりました。佐藤讓副会長、山田純副会長、理事、役員の皆様と力を合わせて学会の発展のために全力で取り組む所存ですので何とぞよろしくお願い申し上げます。
昨年は創立30周年を祝う記念事業として、
(1)ホームページの改訂
(2)学会の学術財産の集約したDVDの出版
(3)創立30周年記念誌の発行
(4)記念祝賀会・記念シンポジウムの開催
が実施され、日本熱物性学会創立以来30年間にわたる先進的な取り組みによる研究成果と知的基盤への寄与を、学会の歴史に記録し社会に発信することができました。私自身は1980年に東京の青山会館において開催された第1回熱物性シンポジウムに参加する機会に恵まれ、日本熱物性研究会が生まれる場に立ち会うことができました。先輩方が創立30周年記念誌で述べておられますように、広い分野からの参加者が集い従来の学術・研究分野の垣根を越えて討議を行っておられることを目の当たりにして強い感銘を受けたことを記憶しております。本年11月に慶応大学の日吉キャンパスにおいて開催される第32回熱物性シンポジムに多くの会員の皆様に御参加頂き、日本熱物性学会の次の30年に向けての一歩を共に踏み出せれば幸いです。
日本熱物性学会は「知的基盤としてのデータ重視」という新しい視点を出発点とし、「学際的・分野横断的広がり」を大切にして発展してまいりました。科学技術の知的基盤としての熱物性データを重視する姿勢は、第1回熱物性シンポジウム講演論文集に積極的に数値データの表を掲載することを想定して、1講演あたり4ページの執筆が割り当てられていたことに象徴されています。さらに熱物性データに関する取り組みの集大成として、1990年5月に熱物性ハンドブックが発刊され、2008年3月に改訂(新編熱物性ハンドブック)されました。一方この間に、地球環境問題、省エネルギー技術、シミュレーション技術、エレクトロニクスデバイスにおける熱マネージメントの必要性、など様々な分野から、新規の熱物性研究ならびに熱物性データの整備と供給に対する期待が高まってきました。
幸い2006年より開始された「研究分科会」はこのようなニーズにタイムリーに応えており、生活研究懇話会の研究成果が「人と環境にやさしい熱のはなしFor our better lives!」としてすでに出版されています。引き続き「マイクロ・ナノスケール熱物性ハンドブック」、「宇宙機のシステム熱設計」の2冊が創立30周年記念企画の一環として出版される予定です。また今期より新規に「水がかかわる熱物性」の研究分科会を開始します。水の移動や潜熱・顕熱の理解は生体、医療、調理、衣料、建築材料、土壌、など多様な分野の熱現象を解明するために不可欠であり、本学会の財産である広範な研究分野にわたる連携と交流の舞台となることが期待されます。なお学会の研究成果の発信に際しては印刷物に加えて、電子出版の可能性も検討したいと思います。学会誌「熱物性」は2006年よりJ-STAGE に登録され、インターネットにより掲載論文にアクセスできます。熱物性誌および熱物性シンポジウム講演論文集に掲載された熱物性データのデータベースへの収録と公開も重要課題であると考えています。
日本熱物性学会は、環境エネルギー問題の解決、熱的な機能に優れた材料の開発と利用、安全・安心・快適な生活の実現など社会の持続的発展を支える技術の基盤情報である熱物性研究の成果と熱物性データを速やかに供給することにより社会に貢献していきたいと思います。会員の皆様の御支援、御協力をよろしくお願い申し上げます。