エフォート率




高田 保之 (九州大学)




 「エフォート率」というものに最近悩まされている.昨年の12月から学内の新しい研究所の兼務をしているのだが,そこのエフォート率を上げよというお達しがあったのである.いままで申告していたエフォート率では低すぎるというのだ.それで関係者が集まって議論になった.わかったことは,エフォート率の計算の基準が人それぞれで異なるということである.たとえば教育30%,研究40%,その他30%として,残業がまったくなく,週40時間勤務で考えれば,教育12時間,研究16時間,その他12時間ということになる.「その他」には管理運営,学会,社会連携が含まれる.その中から当該研究所のエフォート率を出すとき,「研究」エフォート率の中から15%くらい出せばよかろうと思って報告したところ,「教育」や「その他」の中で,その研究所に少しでも関係するものも含めなさいということになり,結果として60%で申告することになった.かなり詐欺に近い数値だ.
 この申告の前提である週40時間勤務というのは建前であって,実際に働いている総時間は,週60~70時間くらいにはなるだろう.そうするとエフォート率を計算する際の分母を40時間のままにしていれば,本当のエフォート率のトータルが150%を超えるのは当たり前である.
 そもそも我々のように土日を返上して研究(というより雑務)をしている者は,トータルで150%位のエフォート率を持っていなければ,やっていられない.研究費を申請する場合でも合計のエフォート率が100%を超えてはいけないことになっている.最近知ったのであるが,e-Rad(府省共通研究開発管理システム)には各種研究費の申請書に記載されたエフォート率の確認ができる.研究費を申請するたびに,自分に残された使用可能なエフォート率が徐々に少なくなっていくことがわかる.
 一体いつ頃からこのエフォート率という言葉を使い始めたのだろうか.調べてみると,平成16年度の科研費の計画調書に「エフォート」という項目があった.今年が平成23年であるからもう7年も使っているのである.シラバスという言葉同様,導入した時はかなり違和感があったが,最近はそれも感じなくなり,かなり定着した用語になった.
 ではエフォート率の不足を解決する方法はあるのだろうか.いっそのこと研究者間でエフォート率を売買できるようにしてはどうだろう.二酸化炭素の排出権取引みたいにすればいいのだ.エフォート率を買えば,新たに研究費の申請ができる.
「エフォート率を10%くらい売ってくれない?秋になったら返すからさぁ.」
「お安い御用だ.最近勤労意欲がないから20%でも30%でもいいよ.この前の半額でどうだ?」
購入費用は立て替え払いにしておいて,獲得した研究費から払い戻してもらえばよい.ただし,不採択の場合は自腹を切ることになる.これが一般的になれば市場も成熟してきて,証券化されたエフォート率が取引の対象となるであろう.「エフォート債」とか「グローバル・エフォート・オープン毎月決算型」なんていう商品も出てくるかもしれない.エフォート率の価格設定も問題だ.自分が売るときは高く売りたいが,買うときは安く買いたい.自分の都合通りにはいかないだろうが.
 自分にとって理想的なエフォート率の配分は,教育30%,研究30%,管理業務10%,学会活動等20%だと思っている.これで合計90%だ.残りの10%は酒飲みのエフォート率にしたいところであるが,なかなかそうもいかない.今日も学振の大学院教育のプログラムに申請するから調書を出せと言われて,また5%とられてしまった.ここまで読み進んでこられた会員諸氏もこのくだらない文章を読むのに1%は消費(消滅)したのではないだろうか.残念ながら,エネルギーと違ってエフォート率は保存されないのである.


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