冬の省電力と住環境





佐藤 真奈美 (大阪工業大学)




 春まだ遅い東北を襲った未曽有の震災は一瞬のうちに貴重な人命ばかりでなく文化財や産業基盤を奪いました。さらには生活に欠くことのできない電力の供給源に甚大な被害を与えました。東北、関東に限らず、今夏は電力消費量の大きな製造業を中心に多くの企業が稼働時間調整や出勤日調整で消費電力量の平準化を図りました。発電所への直接被害が無く、関東への直接の電力供給を担う事のないここ関西一円でも、家庭向け省電力キャンペーン「電気予報」が(冷房機使用による消費電力量予測値の供給可能電力量に対する比率表示)連日行われました。原子力発電所への目の当りの危機感が、原子力依存度の高い関西の電力事情へ大きな影を落とした結果です。連日の猛暑日を過ごした昨夏に比べ、やや暑さも穏やかだった今夏ではありましたが、クールビズを味方に職場の冷房設定温度28℃での勤務をどうにかやり過ごした感のある今日この頃です。
 9月の強大な台風が去った後、早々に秋を思わせる気温低下がありましたが、10月も中旬というのに何とも蒸し暑さを感じる日が続いております。しかし、今年のカレンダーも残すところ2枚、季節はすっかり冬支度の頃となりました。衣替えで、扇風機を納戸に仕舞い、暖房器具のカバーをはずした所でふと考え込んでしまいました。我が家の暖房器具はエアコン、ホットカーペット、電気オイルヒーターなのです。暖房時期にも当然行わざるを得ないであろう省電力への協力を考えると目の前が真っ暗になってしまいます。
 私の住まいはRC造の集合住宅、俗称「マンション」です。断熱、遮熱第一ですから、最上階住戸や開口部をたくさん有する角住戸は決して購入いたしません。断熱性能が確保できる中間階中間住戸で、防露対策として十分な換気量確保と顕熱型暖房器具の使用で冬を過ごして参りました。単層ガラス窓でも結露発生の経験なし、風呂場、水回りのカビ発生、クローゼット内収納物の湿気、カビ発生の被害なしで14年暮らしております。難点といえば冬季の室内相対湿度が30%を上回らないことです。低湿度環境で不便はないのですが、悪性ウイルスによる呼吸器系の病気を発症したくないので、最近の自身の研究成果をもとにせっせと洗濯干しで室内湿度調整をおこなっておりました。暖房、採暖をすべて電力の消費で賄っているこの身のささやかな省エネルギーです。
 さて、省電力まっただ中の夏、灯油暖房器具が大いに売れて、メーカーの製造が間に合わない状況であるということを聞きました。売れ筋は対流型、放射型の「石油ストーブ」です。震災直後の避難所となった学校体育館で連日のように見たあの赤々とした炎が見える石油ストーブです。着火用の火種があれば、どこでも暖を取れる採暖器具です。エネルギー経済統計要覧2007年によれば全国平均で1世帯当たり年間灯油消費量は268ℓです。暖房期間90日、1日8時間の石油ストーブ利用とすると、燃焼による加湿量は400~450g/hと予測されます。灯油消費量の多い寒冷地も入っていますので、温暖な地域をこの量で評価するのは安全にすぎますが、ひとまずお聞きください。建築基準法(2003年改正)に従い0.5回換気が行われている暖房室(12畳)と暖房室空気が流入する非暖房室(4.5畳)を考えます。暖房室、非暖房室には吸湿が無いとして加湿量が居室に及ぼす影響を評価してみます。2時間で500g余りの加湿がある場合、20℃設定の暖房室相対湿度は最大で85%を超えます。室内の最適湿度環境40%~70%をはるかに超える値です。時間遅れはありますが非暖房室も同様に相対湿度90%に近い高湿状態となります。このことから類推するに、1時間で400g以上の加湿が8時間続いた場合に結露発生のリスクは極めて高い状態であるといえます。今冬、石油ストーブ使用住戸でインフルエンザ罹患者の抑制を期待する反面、結露被害発生の拡大を心底心配しているところです。


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