環境に関連する話題あれこれ
吉田 篤正 (大阪府立大学)
環境問題は熱物性との関わりも深いと思われるので,筆者が関与している事象も含めていくつかの話題を取り上げてみたいと思います.環境から少し外れた内容もありますが,ご容赦下さい.
マスコミを賑わすことが以前に比べると少なくなったが,地球温暖化問題では省エネも含めて二酸化炭素削減で議論がされてきました.人為的な排出に伴う大気中の二酸化炭素の増加が原因とされますが,地球温暖化の兆候の検出については十分な検証が必要と思われます.将来の予測となると不確定要素が多く,いくつかの仮定の上での数字であることは否めません.気体のふく射輸送の取り扱いの確認も重要と考えます.我田引水でそれぞれの立場で都合のよい数字が使われるケースがあり,注意が必要と思われます.
最近注目を集めている話題の一つが中国から飛来するとされるPM2.5に分類される浮遊微粒子で,空気清浄機が売れていると報道されています.春先の花粉や黄砂の飛来を考えると春霞として季節を表す日本の風物詩とは言えない状況です.日本でもかつて公害という言葉を生み出した時代には大気汚染がかなり深刻で,現在の大気環境からは想像できない状況でした.喘息などの健康被害が多発し,環境規制の発端となりました.PM2.5の問題に関しては,日本では冷静な対応が望まれます.
安全・安心な生活を脅かす話題として,鳥インフルエンザによる患者発生のニュースも入ってきています.目に見えない恐怖があり,早期の収拾が望まれます.意味合いは異なりますが,福島の原子力発電所の事故に伴う周辺での放射能汚染も大きな問題です.現地での生活基盤となる農耕地についても,安全性の観点から厳しい状況です.その打開策の一つとして,完全閉鎖系の最新鋭の植物工場が現地で実証事業として稼動を始めます.昨年の大阪での熱物性シンポジウムの折には最終日に大学内の植物工場の見学会を企画させていただきました.コストに跳ね返る照明や空調などで必要とされるエネルギーを削減する研究が進められています.植物の体内時計を考慮して栽培環境を制御し,栄養価,食感など品質向上や付加価値の高い植物生産の可能性を探っていく必要性があります.
これから気温が上昇する季節になるとクローズアップされるのが,光化学大気汚染や都市高温化(ヒートアイランド)の環境問題です.光化学大気汚染に関しては窒素酸化物など1次汚染物質の濃度は低下しているにも関わらず,対流圏オゾンを主成分とする光化学オキシダントの高濃度日が出現しています.複雑な化学反応を伴い,植物起源の揮発性有機化合物の関与,中国から反応を伴いながら飛来する光化学オキシダントも影響しているとの報告もあり,原因の究明,効果的な対策に対しては今後の研究成果が待たれます.
ヒートアイランド現象の発生原因に関しては,自然表面から人工表面への置き換え,人工排熱の増加,建物密集による換気の悪化,夜間の放射冷却の低下などが挙げられます.対策技術もいくつか提案されており,一部環境省による実証試験などが実施されています.また,大阪ヒートアイランド対策コンソーシアムによる技術認証制度も始まって,技術の格付けが進みつつあります.対策技術の一つとして,オフィスビルの外壁に断熱性の高い木質外装材を設置する木化の取り組みを紹介させていただきます.外断熱と同じ役割を担うことができ,既存の建物への断熱改修も期待され,表面の高日射反射率の付加により,その効果も大きくなる可能性があります.木材の有効活用の観点から間伐材の使用も可能です.屋外での長期使用を高温蒸気による熱処理により可能にしています.木質外装材はデザイン性にも優れ,無機質から温か味のある街並みへ変える都市設計が期待されます.木化に加えて緑化も気温低減効果以外に上述の人間の感性や体感温度への効果の検証も重要と思われます.
環境問題は1つの学問分野で解決できない,学際的で分野横断的な取り組みが重要となります.多くの分野を包含する熱物性学会も同じような色合いかと思います.これまでの発想と異なる対策技術の開発にも異分野融合が必要と考えます.