第37期会長就任にあたって




高田 保之 (九州大学)




 第37期会長を拝命しました九州大学の高田です.どうぞよろしくお願い申し上げます.会長就任にあたり,一言ご挨拶申し上げます.
 熱物性は,一見地味な研究分野と見られがちですが,熱物性値は社会を支える上で非常に重要な知的基盤であります.世の中の多くの製品の設計・製造において,特に熱が係る部分で熱物性値が使用されています.そのためには,信頼できるデータを社会に提供することが肝要であり,それが結果的に製品の信頼性につながっているのだと思います.信頼できる熱物性値を世の中に提供することは本学会が担う社会的な責任であります.
 しかしながら,世間一般の人々の熱物性値の重要性に対する理解は乏しく,日々熱物性値に大変お世話になっているはずの研究者やエンジニアでさえも正当なリスペクトを払っているようには思えません.熱物性値があたかも水か空気のように只で手に入ると考えているのではないかと感じることさえ度々あります.このような薩摩守のような人々に熱物性値の重要性を認識していただき,相応な敬意を払っていただけるように世の中に訴えていくことも本会の重要な責務であると考えます.それが結果的に本会会員および本会の地位向上に結びつくのではないでしょうか.
 さて,第37期における重要なイベントとして,第11回アジア熱物性会議(ATPC2016)が2016年10月2日から6日までパシフィコ横浜で開催されます.現在,実行委員長の長坂雄次先生と幹事の田口良広先生を中心に着々と準備が進行中であります.1986年に第1回のATPCが北京で開催されてから,ちょうど30年が経過しました.この間,ATPCはアジア地区の熱物性研究の国際化と地位向上に多大な貢献をしてきました.3年毎に開催されているこのATPCは,米国熱物性シンポジウム,欧州熱物性会議(ECTF)と並んで,いまや世界の三大熱物性会議に成長しました.会議名にアジアと冠が付いていますが,欧米からも多数の参加者が見込まれる正真正銘の世界的な会議となっています.本会としても,ATPC2016の円滑な開催に向けて精一杯実行委員会をバックアップしていきたいと考えております.
 ところで,最近,理想的な学会とはどのような学会だろうと思うことがあります.皆様もそうだと思いますが,私も,本会以外に他の複数の学会に所属しており,そのうちのいくつかの学会では運営を担うような立場になってきました(年をとればそういう役回りになってくる訳です).学会には会員数が数万人規模の大きな学会もあれば比較的小規模な専門学会もあります.それぞれに特徴があり,所属することでメリットとデメリットがあります.もちろんメリットの方がデメリットより大きいのは言うまでもありません.一般に学協会の最大のメリットは,会員になることで非会員では得られない有益な情報が得られることにあります.
 日本熱物性学会の良さは,食品,衣料,材料科学,化学工学,機械工学など非常にバラエティに富んだ専門領域の方々により構成されているという点であると思います.この多様性は,新しい学問領域を生み出す力の源泉であります.多様であるにもかかわらず,非常に家族的な雰囲気の居心地のいい学会であると私は個人的にそう感じております.熱物性シンポジウムの懇親会に出て,差し入れの地酒がずらーっと並んでいるのを見るたびに強くそう感じます.他学会に比べると会員数は多くありませんが,そういう風に居心地良く感じられることがコンパクトさゆえの最大のメリットではないでしょうか.それは学会内での風通しの良さにもつながっていると思います.
 本会が誕生してから,もうすぐ40年になろうとしていますが,肥大化し成熟しきってしまった組織とは違って,まだまだ成長の余地のある若い学会であると思います.活力のある学会でありつづけるためには,若い人たちをいかに惹きつけるか,若い人たちがいかに活躍できる環境を作るかに掛かっています.そのためには30-40代の会員の増強と活性化が重要であります.しかしながら具体的な方策は私の硬直した頭には浮かんできません.本会の運営に若い方たちを巻き込んで,一緒に考えていければと思います.私自身,精神的にまだ成熟していない発展途上の身ではありますが,一所懸命頑張りますので,どうぞ会員の皆様には,よろしくご支援・ご協力のほどお願い申し上げます.
 と,ここまで書いてきてふと気づいたのですが,この就任挨拶は私の特徴が反映されていない,ありきたりのつまらないものなってしまいました.私の国語の能力では,こういう挨拶文に独特の個性を散りばめるのは非常に難しいということを痛感しました.

topへ