副会長就任にあたって




杉山 久仁子 (横浜国立大学)




 今期(第37期)副会長をさせていただくことになりました横浜国立大学の杉山です.昨年確か9月だったと思いますが,前期会長の佐藤真奈美先生(大阪工業大学)から副会長(無任所)にとのご連絡をいただきました.あまりにも突然のことでしたが, 日本熱物性学会ではこれまでいろいろと勉強させていただいていたこともあり,自分に何ができるのかということをきちんと考える前に,お引き受けしますとお返事をしてしまいました.
 私は,小学校教員を志望して横浜国立大学教育学部に入学し,家庭科専攻で勉強していました. 3年生になって渋川祥子先生(第23期会長)の調理実験の授業を受け,調理科学の面白さに魅了され,卒業論文では食品のオーブン加熱に関する研究に没頭し,研究を続けるために修士課程に進学しました.その頃,実験装置や実験のための計算を手助けしてくださっていたのは,工学部の飯田嘉宏先生(第20期会長)の研究室の院生の方でした.同時期に,本学会主催の温度測定に関する講習会が日本女子大学で開催され,家政学で熱に興味を持つ人たちが参加するなか,棚沢一郎先生(第13期会長)の講義を拝聴しました.休憩時間に紙に書いて出した質問がたまたま取り上げられ,棚沢先生に丁寧に答えていただき,大変感動したことを今でも鮮明に覚えています.その後,本学会に入会し,平成6年に初めて熱物性シンポジウムで食品の鉄板焼きに関する研究結果について口頭発表をしました.その時には,半年前に生まれた息子を連れて飛行機で会場に向かい,会場近くで妹に息子を預け,発表するセッションの間だけしか学会に参加することができませんでしたが,たくさんの質問とご助言をいただくことができ,とても刺激的でした.その後,食品の加熱に関する研究は,日本調理科学会の大会と熱物性シンポジウムで発表をするようになりました.
 日本調理科学会では,加熱調理について勉強し合い,情報交換を行うことを目的として加熱調理研究委員会を渋川祥子先生が平成14年に立ち上げられ,連絡係を担当していました.約50名で活動を始め,第1回の勉強会では,山田悦郎先生(第22期会長)と牧野俊郎(第28期会長)にご講義をお願いしました.熱に関する専門的な知識が乏しいメンバー対して伝熱の基礎を分かりやすく解説していただき,大変好評でした.その後も,1年に1回,学会の年大会の期間中に勉強会を開催し,本学会の会員の先生方にも講師をお願いしてきましたが,100名を越える参加者がありました.共同研究も途中から始め,委員会としてその成果を発信してきました.しかし,13年間の活動を経て,昨年度で委員会としての活動は終了しました.
 このように,私の食品の加熱研究において,本学会とのつながりは非常に大切なものでした.食品は化学的にも物理的にも複雑で,個体差も多く,研究対象としては非常に扱いが難しいものですが,私たちが生きていく上で必要なものであり,食品をより安全でよりおいしい食べ物にするために,食品の加熱に関する研究は重要です.
 実は,ここに書いている内容と本学会の30周年の記念誌に書かせていただいた内容とはよく似ています.副会長に就任し,自分に何ができるのか,何をすべきなのかと考えたところ,同じところに戻ってしまったのです.
 ここ数年,熱物性シンポジウムでは食品に関するオーガナイズドセッションを担当させていただいていますが,なかなか発表者を広げることができていません.今年横浜で開催するATPC2016では実行委員の一人ですが,食品での口頭発表のセッションを組むことができませんでした.個人的には,年齢を重ね,大学内で責任のある仕事が増え,自分の研究のための時間は激減してきました.食品の加熱に関する研究をより発展させて行くために,そろそろ自分のためにではなく,将来のことを考え,若い世代の研究者を増やし,「熱」を専門とするこの学会との繋がりを広げていくことを考えたいと思っています.
 副会長として本学会の会員の皆さんのために私ができることは限られていると思いますが, どうぞよろしくお願いいたします.

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