平成30年 会長挨拶 第39期会長就任にあたって




上利 泰幸(大阪産業技術総合研究所)





 第39期(2018)の会長を拝命しました大阪産業技術研究所の上利泰幸です.会長就任にあたり,一言ご挨拶申し上げます.
 地球環境問題の深刻化の中,パリ協定も批准され,より厳しい温暖化対策が求められるようになっていますが,やはり省エネが大きな役割を果たすべきと考えられています.そしてサーマルマネージメント(断熱,熱電機能,高熱伝導,耐熱,熱ふく射・反射などの熱物性の効率的な制御)がますます重要となっています.例えば電気自動車では駆動時の低温や使用時の高温に弱い電池の対策,発熱量が大きいエンジンを使用しないために熱電素子や蓄熱の高効率化が求められ,IoTセンサーの駆動のための中温水の利用システム,高機能化のためにますます発熱するAIシステムのためのより放熱性に優れた電子基板が必要となっています.また,スマートハウスでは,効率的な断熱や太陽熱からの窓の遮熱が求められています.このように今まで脇役が多かった,本学会の主対象である熱物性の研究に,主役となる可能性も生まれてきました.
 本学会は,熱物性値の測定・評価・普及などに携わる研究者が広く集い,成果を発表する場として学会として設立されて,早くも40年近くになろうとしています.そして,それらの集大成として発刊した熱物性ハンドブックやナノ・マイクロスケール熱物性ハンドブック等を通じて社会への研究成果の還元を行ってきました.これらの本を読んでいただいてもわかるように,熱工学だけでなく,金属,セラミック,高分子,ガスや低分子物質などの種々の材料分野,建築,電気,衣料,食品などのさまざまな応用分野の専門家が研究成果の発表及び交流の場として集っています.しかし,その専門家は熱物性以外の大規模な学会にも所属している場合も多いので,その基盤の違いが多種多様の知識をもつ人の集まりとなり,会員数が500人に満たない本学会が幅広い分野に利用できるハンドブックを編集できることに繋がっていると思います.また,通常の交流会では,他の分野の大先生になかなか教えを乞うことができませんが,本学会では種々の分野の大先生も気軽に教えていただけるのが特徴だと思います.したがってスティーブ・ジョブズのようなマルチタレントな人材が求められる中,その人材育成に本学会は非常に適した学会だと思います.
私自身のことを振り返ると,大学では有機合成を学び,就職してプラスチックなどの研究を行う中で,これから熱物性とプラスチックの関係に将来性があると思ったのですが,どこに行けばその分野のことがわかるかと悩んでいました.そのとき真空理工の前園さんに紹介を受け,第3回のシンポジウムの事務局の静岡大学の荒木先生に締め切りが過ぎた後に臆面もなく研究発表をお願いしたのが,本学会とのお付き合いの始まりです.そして,熱力学法則にのっとって演繹的に考える熱工学の先生と,実際に作ってみた材料の複合構造や分子の構造から帰納法的にものを考える私とのギャップの差を感じた異文化交流が続きましたが,最近,熱工学の考え方が少しは理解できるようになりました.
 このように,この学会は異分野の専門家が集まるだけでなく,それらの思想が混ざり合う場だと思います.そして,さらに熱物性をキーワードに,これまでの熱力学法則を超える事象を探す物理研究者や,変化が激しくいつでもアクティブでないといけない電気・電子系研究者,"生き物だからね"と個体差に対応できる生物・医学の研究者の考え方が融合して,さまざまな色の化学反応を起こすことで,日本を代表する研究者を輩出できると確信しています.本年のシンポジウムは名古屋駅前のウインクあいちで11月13日~15日に開催されますので,たくさんの方に集っていただいて発表・交流することで,"Aha"につながる大きな成果を得ていただければと思います.
 運営は,事務局担当の森川副会長をはじめ,若くて優秀な役員が頑張っているので安心して任して一緒に考えて行こうと思います.このような私ではありますが,微力ながら一所懸命頑張りますので,どうぞ会員の皆様には,よろしくご支援・ご協力のほどお願い申し上げます.

topへ