第40期会長就任にあたって




平澤 良男 (富山大学)




 この度,日本熱物性学会第40期会長を拝命いたしました富山大学の平澤良男です.歴代の会長の皆様を見てみますと,日本熱物性学会(日本熱物性研究会も含めて)発足以来,私のふた周り近く年上の創設時の中心となられた先生方から始まり,ひと回り年上の方々,最近は私よりも年下の皆様のお名前が増えて来ているようです.これで「もともと,会長のような重大な任務は自分に廻る事は無いだろうが,万が一でも私にお鉢が廻って来る事は無かろう・・・」と思っていたのです.しかし,昨年9月のある日の電話で完全に局面が変わり,40期の会長を務めなくてはならなくなりました.まさに,キラーパスです.「研究者としての最終場面で学会に何か恩返しをしなさい」ということかと存じます.会長として力量不足の面は否めませんが,努めさせていただきたいと存じます.
 私事で申し訳ありませんが,本年3月末をもって定年退職となるため,現在利用している教員室の整理(要は書類等の断捨離?)を進めている訳です.特に古い論文作成のためのデータを書き込んだ手書きノートなどが出て来ると思わず手が止まります.今ではおそらく誰も使わないようなミニコピーフィルム(コントラストが強烈),ジアゾフィルム(アンモニアで青く発色)のスライド,烏口(これも若い人はわからない),トレーシングペーパー,図の原本にタイプで打ち込んだ目盛り,OHPシート・・・どんどん想い出が湧いて来ます.私の恩師の教授が残した手書きノート・・・これが秀逸です.60年くらい前のものなので,コピー機は当然ありません.文章はもちろん図表もトレーシングペーパーの上から手描きで写されています.これは捨てる事が出来ません.
 私の大学教員の歴史と熱物性学会との関わりは妙にリンクしています.昭和55年(1980年)青山会館で開催された第1回熱物性シンポジウムに参加したのが始まりですから,もう39年前になります.当時,私は昭和53年に修士を修了した後,富山大学工学部に助手として勤務したばかりでした.切っ掛けは,学会(確か,金沢で開かれた「日本伝熱シンポジウム」の後,当時東京工業大学教授であった片山功蔵先生が富山大学工学部にフラッと寄られた時に「今度,熱物性シンポジウムというのを開催することになりました.それに参加してみたらいいですよ」・・・思えばこれが最初のキラーパスです.第1回熱物性シンポジウムは,講演室は青山会館の大ホール1室のみで,参加者全員が全ての発表を聴講し,質疑応答をする形式でした.熱物性研究会創立の中心メンバーである方々が前方に陣取り,活発なやり取りでありながらもどこか家庭的な柔らかさがありました.
 熱物性学会が主催するシンポジウムでは「熱物性という一つのキーワードの元に様々な分野の研究者が一度に集い,研究発表・議論を行うことで,幅広い学際分野間の交流を図る」ことが主題です.このように研究の多様性があるため,他の学会では考えられないような幅広い専門領域の方々が参加しておられます.被服や食品などの家政関係,物理化学関係,新素材,断熱材,建築材料,ナノスケールでの測定技術から宇宙関連産業と本当に幅広い分野に亘ります.このように幅広い裾野がありますから,毎年開催されるシンポジウムにおいてもオーガナイズドセッションは10個以上が企画されています.
 会員数は最近500人前後で推移しておりますが,以前の巻頭言でも申し上げたようにちょうど良いスケール感かもしれません.熱物性は非常に地味に見える分野ではありますが,物質自体の物性は種々の環境でも変化します.さらに複合現象ともなればお互いの熱物性が絡み合って,見かけの熱物性あるいは融合現象として捉えた場合の熱物性を考えるにはより新しい発想が必要になるかと思われます.もちろん,基礎となるそれぞれの物質・材料の熱物性の再確認が最重要ですが,融合現象として捉えた柔軟性のある考え方や異分野での概念を取り入れて新しい発想を加味していく.そんな柔軟な思考ができる学会の雰囲気作りが出来るよう,微力ではありますが学会のために務めさせていただきます.

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