コロナに立ち向かって




東 之弘 (九州大学)




 この度,第41期小原会長の後を引き継いで,第42期の会長職を拝命いたしました,九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所の東です.慶応義塾大学工学部機械工学科の熱力学研究室に所属した学部4年生の時から,流体熱物性(特に冷媒熱物性)の分野に携わることになり,恩師である渡部康一先生,上松公彦先生,佐藤春樹先生,さらには,同じ機械工学科で長島昭先生,長坂雄次先生に直接ご指導いただいた私にとっては,まさに物性計測を専門とする日本熱物性学会が,本当の専門分野の学会であると考えてきました.本学会でこのような大役を仰せつかるということは,とても名誉なことであるとともに,責任のある仕事と認識しています.会員の皆様の力をお借りして,学会のために何かのお役に立てるように務めさせていただきたいと思います.1年間ご支援,ご協力のほど,よろしくお願いいたします.
 さて,未だ完全な解決策が見えていないコロナ禍の現状で,テレビやネットのニュース情報に現れる数字に,気の休まらない毎日を会員の皆様も過ごされていることと思います.この1年間で生活環境が大きく変化した方が多いのではないでしょうか.例えば,私の場合ですが,
・昨年度前半は,大学構内への入構禁止状態が続き,長期にわたる在宅でのオンライン生活を初めて経験しました.実験装置に
 向かって,冷媒の熱物性測定をコツコツと行なうことが本業の私には,実験室に入れないという現実がものすごいストレスで
 あり,まさに我慢の時期でした.
・大学内では,学生と対面して行う授業・演習が行えず,事務局職員もローテーションでテレワークとなりました.若者が集う
 賑やかな場所だった大学から,広大で静かな建物になってしまいました.
・オンライン授業,テレワークの普及により,1年前は知らなかったZoom,Teams,Webexといったオンライン会議のソフト
 ウエアが,最も身近なツールとなりました.
・理工系学部の卒論・修論対象学生の学内入構がようやく夏を過ぎた頃から可能になりましたが,ソーシャルディスタンスの確
 保,アルコール消毒,マスク着用が必須である状況は,現在も続いています.
 コロナショックは,本学会でも大きく影響していたようです.理事会や役員会などの運営機能,さらにはメインイベントであるシンポジウムや総会もオンライン開催になりました.シンポジウム会場において対面で行うべきディスカッションができなかったこと,また,年に一度顔をあわせる恩師や先輩,後輩と親交を深める懇親会がなくなったことはとても残念でした.学会の意義の一つは,地理的に離れた職場で働いている研究仲間が,意見交換をし,親交を深める場でもあることを改めて痛感しました.1日でも早く,平穏な日常を取り戻し,まずは今年の熱物性シンポジウムを現地で開催できることを願いたいと思います.
 最後に,コロナ対策として医療の専門家でもない私にできることは,コロナにかからないように気をつけることくらいしかありません.そのためには,手洗い,うがい,マスクの着用が大切ですが,正確な情報を入手して,それを周囲に正しく伝えていくことも重要です.これは熱物性値に関しても同様であり,誤った熱物性値情報を伝えて,世間に混乱を招くことは最も避けなければいけません.それには,何が正しく,何が正確であるかを,確実に識別できる人材の育成も重要となります.我々の持っている熱物性に関する知識が,COVID-19に直面した社会で直接的および間接的に役立つ時があるはずです.今だからこそ,様々な分野の研究者が協力・連携している本学会の強みを有効に活用して,世の中に貢献できればと期待しています.

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