太陽の声を聞く 原点に立ち戻って ーグラハム・ベルの手紙からー




森川 淳子 (東京工業大学)




 この度,第42期の東会長の後を引き継いで,第43期の会長職を拝命いたしました,東京工業大学物質理工学院の森川です.本学会でこのような大役を仰せつかりましたことは,名誉なことであるとともに,責任のあることと身の引き締まる思いであります.会員の皆様とともに,本学会・ 本分野の躍進に力を尽くしてまいる所存です.どうぞよろしくお願いいたします.
 令和4年の第43期では,主催国際会議 ATPC2022(The 13th Asian Thermophysical Properties Conference)を9月26日〜30日に東北大学教授,福山博之実行委員長のもとで,ま た第43回日本熱物性シンポジウムを和歌山高専教授,大村高弘実行委員長のもとで10月25日〜27日に開催の予定 です.さらに,新たな試みとして,熱物性セミナーシリーズをオンライン開催として準備中です.本年度の大テーマは,「次世代熱・エネルギー問題と熱物性」とし,熱物性分野からの発信を学会内外へ幅広く行ってまいりたいとの意気込みです.詳細は,いずれも本学会誌やHP,メーリングリスト等でお知らせしますので,ご参加ください.
 また,闊達な意見交換や情報発信のために,広報・企画 による「学会活動の見える化」を促進してまいります.本学会の特徴と良さをコアとして大事にしながら,デジタルトランスフォーメーションの推進にも取り組むべく,日々議論を続けたいと思います.皆様からのご提言もお待ちし ております.どうぞよろしくお願いいたします.
 さて,令和4年を迎えるにあたり,今年こそ平穏な,ごく普通の日常を願ったのも束の間,予想を超えるスピードで,オミクロン株が国内でも流行し,南太平洋の海底火山の噴火に伴う津波の予想外の襲来に,一晩中ラジオが鳴り止まない日があったりと,自然との闘いは,より勢いを増して人間社会に覆いかぶさることに,先の見えぬ不安と,テクノロジーの行く末を案じる日々が続いております.そんな折,先日,共同で開講したローマ大学との輻射と光音響の講義の中で,ハッとするようなある発明家の言葉に目 が止まり,ふと我に返った気がしましたので,ご紹介させ ていただきます.
 電話の発明で知られるAlexander Melville Bellは,1880年2月26日,彼の父への手紙の中で,太陽光を用いた光音響現象のphotophone(フォトフォン;光電話)への応用のアイデアについて,その興奮を次のように伝えています.

“ ... our conclusion, that sounds can be produced by the action of a variable light from substances of all kinds......”
“ I have heard articulate speech by sunlight! I have heard a ray of the sun laugh and cough and sing! ....I have been able to hear a shadow and I have even perceived by ear the passage of a cloud across the sun’s disk.” 注*

この手紙の数ヶ月後,ワシントンD.C.でセンサーをセレンに改良し,光通信のさきがけともいわれる実験を成功させたといわれます.実際の無線通話はマルコーニの電波による方法が先に実用化され,本格的な光通信には,レーザーの発明を待たなくてはならなかったことは,史実が伝えるとおりですが,当時すでに発明家として時の人であったろうBellが,一人の科学者として,自然との対話の素朴な感動を伝えていることに,科学技術の原点を,あらためて気付かされた思いがしました.今や喫緊の課題である気候変動と産業のあり方についての議論は予断を許さぬものです が,その原点には人類が育まれ,教えを受け,感性を磨き,そして共生してきた自然との長い歴史があったことに,謙虚に思いを巡らすとき,さらなる共生の道を見つけることができるのではないか,そのような希望をBellの言葉が教えてくれたようにも思います.
 そしてこれらのことを解く鍵は,私たちの依って立つ,熱物性分野にも多いのではないかとの期待を強くしております.科学の原点に立ち戻り,今一度,飛躍の時を待ちたいと思います.皆様と,本学会と,そして科学技術の豊かな共生と発展を願い,年初のご挨拶とさせていただきます.

注* Philosophical Magazine Series 5 LXVIII. Page 510-528.

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